2011年12月17日土曜日

Peninja.(命の価値)

Peninjaは死にました。

昨日は仕事がたまっていたので部屋にこもって丸つけやら何やらで忙しかったんです。一息ついて外に出たのは夜九時をまわったぐらいかな。弟が「ベリンジャーが車にひかれて下半身ひきずってたよ」って平気な風でトランプ遊びをしていました。

どこにおるん?って聞いても「隣の家じゃない?」って曖昧な返事。

このチュークでは車の速度は20キロ程度、たまに犬がひかれたって聞いてもだいたいはぺしってぶつかったぐらいで弟の緊迫感のなさからもたぶんたいしたことないんだろうなと思いつつも心配なのでお隣まで足を運びました。

ベリンジャーはどこ?聞いたところでお隣さんも「知らんよ、何かあったみたいやけど。」って曖昧な返事。

ベリンジャーはどこ?子どもたちに聞くと聞き取れないチューク語で何かいいながら笑って放り投げるジェスチャーをしました。

「もう死んだから海に投げ入れられたらしい。」

弟がトランプのカードを山札に捨てながら言いました。

何で笑ってるん?
何がみんな楽しいん?

四日前にチュークでついに首輪を見つけたんです。青い首輪。ださださのしょぼしょぼの青いナイロンの首輪。私が買ってきて首に巻いてやると機嫌よくつけていたの。たった半日だけだけどね。夜にはもう誰かが外していました。葬式があるので繋いでいたら吠えるからとかがどうせ理由ちゃうかな。何にせよ私が買ってきたベリンジャーの首輪は半日で外されました。

パパスもママスも病院やし、ここ最近は私の発言権があまりなかったから黙ってたんです。今日の昼、近所の犬を追っかけて道路に飛び出すベリンジャーを見ながら危ないなぁ…って思いながらも黙ってたんです。

実は首輪は日本からちゃんとしたやつを彼女が送ってくれる予定でした。たまたま届く前にチュークで間に合わせの品を見つけたので試しに巻いてみただけで、今まではずーっと針金で作った首輪を巻いてたんです。首が荒れてしまってかわいそうやったから日本から送ってもらうことにしてたんです。

ロープももう買ってたんです。ロープの先に金具をつけるのももう出来てたんです。カチッてするやつね。
長さも二種類作って、いっこは繋ぐ用。もいっこは散歩用。自家製ベリンジャーセット。
来年からは一日一回はベリンジャーと散歩いくぞっ!て決めてたのに一回もいかれへんかった。

そういえばベリンジャー用のシャンプーも買ったんですよ。まあ人間用シャンプーやけど。これからはぼくが二週間に一回ぐらいシャンプーするからもう臭くなくなるしノミも減るよーってママスに言うてた矢先でした。ママスも大喜びしてたのに。そういえば明日が二回目のシャンプーの日やったね。

寝る時間でもないのに部屋に鍵をかけました。悔しくて悔しくて泣きました。何で誰一人ベリンジャーの心配をしてあげられなかったんだろう。いっぱい人おったやんか。そもそも道路に出る前に止められへんかったんかな。

何でケタケタ笑いながら死んだ死んだって言えるの?

そして、明日にでも友達とふざけた会話をしながらゲラゲラ笑うであろう自分を想像したら涙がとまらなくなりました。ベリンジャーが消えちゃうみたいで涙がとまらなくなりました。

人の死も動物の死も徐々に消化されていきます。普通の何気ない生活を繰り返す中でゆっくりゆっくり消化されていきます。

でも最初からケタケタ笑いながら死んだ死んだという時、そこには「死」が存在してないんだろうなぁ。そもそも彼らは動物の「命」を直視できてないんじゃないかな。

彼らからしたら、お前もアリを潰すし、蚊も叩く、ゴキブリだって殺すじゃないか。みたいなレベルなんでしょう。もっと言えばドアが壊れるとかに近い感覚でとらえているような気がする。

そうだよ。何が違うんだって強気に言われると困るけど。やっぱり違う。

少なくとも、ベリンジャーはあなた達のことを好きでしたよ。変な酔っ払いが来たら狂ったように吠えるのにあなたたちの顔を見たらしっぽ振ってたじゃない。

ネットが葬式の前日からずっとプラグごと引っこ抜かれて使えないので彼女に電話をしました。いつぶりの電話やろ。メールはするけど、声はながらく聞いてなかったなぁ。

ベリンジャーが死んだよ。

首輪もう、買ったのに。
赤い首輪だよ。
ごめんね。送るのもうちょっと早かったらつけれたのにね。

電話越しで彼女も号泣していました。

ベリンジャーよかったね。
もう一人泣いてくれる人がいたよ。

ベリンジャーごめんね。
気づくの遅かったね。

せめて海に捨てられる前に会いたかったよ。
さむいね、さみしいね。

ぼくもさみしい。

ベリンジャーはどこ?
もうおらへんのやね。

ベリンジャーはどこ?
海に帰ったんやね。

放り投げられた近所は汚れて汚いないから沖に行くんやで。この島を離れたら世界一綺麗な海が広がってるからね。

よかったね、ベリンジャー。
チュークはあんまり誇れる場所ないけど海はすごいよ。
サンゴもお魚もいっぱい見れるね。

ごめんね。ベリンジャー。

悩んだけど、ぼくは彼らを許すことにするよ。今回の件は実に受け入れ難いけど。仕方ないんだ。彼らにとって「命」の持つ価値がそれだけのもんなんだから。

怒って喧嘩したところできっと何にも変わらない。さみしいね。

ぼくは先生やから先生として自分が出来ることをすると約束するよ。チュークの学校で命の話をしようね。ベリンジャーのことも伝えるよ。

だからいったん落ち着かなきゃね。
泣くのはやめるよ。

ごめんね。ベリンジャー。
ぼくは君を忘れないけどいつも通り楽しく過ごすよ。もういっぱい泣いたからね。

ありがとう。ベリンジャー。
もうチュークには生まれてくんなよ。

おやすみ、さようなら。

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